水を産む大樹を中心とした栄えある古代都市。
美しい建築物、高い技術力、無尽蔵の知識、厳格な身分制度。永く築かれたそれらが滅んだのはたった一晩、たった一本の樹によるもの。徹底的に管理され、効率的に搾取され続けた大樹がとうとう限界を迎えたからだった。
都市を巡る水は激しい流れとなって建築物を打ち砕き、都市を支えた幹は崩れ落ちる衝撃で技術と知識を破壊しつくし、都市を包む根はその恩恵を最も傍で受けていた者たちを水底へ引きずり込んだ。
今には名しか伝わらぬ大災害「古き水」。
生き残ったのは滅んだ故郷より朽ちた大樹を想って涙を流すような、力も知恵もない者たちだった。
南に水産む新芽が育ち、力を手放した者たちを招く。
育った新芽は森を広げ、寄り沿うだけを選んだ者たちを育む。
森は自身の子らを繋ぎ、自然を畏れ愛する者たちの故郷となる。
そうして、樹々を燃やさぬ火を熾し、水の流れにただ寄り添い、風の声に音楽で返す今の暮らしが出来上がった。彼らはかすかに残った古い知識でこの地を呼ぶ。
こここそ 故郷<オセルノ> である、と。
温帯で降雨の多い土地。気温は比較的穏やかで、集落を支える樹々の木の葉が小雨程度は防いでくれるので降るときは基本大雨で「葉零れ」と呼ばれている。
建築は基本的に通気性を第一としていて、木造・布張り・茅葺が基本。窓はあるが、格子や戸などは付けておらず必要があれば覆い布を付ける。
葉の頃(春分~夏至ごろ)
葉が茂るころ。温かくなってきて水も増え、オセルノも活気づき始める季節。何かを始めたり改めたりする。
「水払い」「満ち水」
花の頃(夏至~秋分ごろ)
花が咲くころ。大樹やその子ら以外にも花に溢れ、オセルノが一番華やかな季節。旅人の訪問も最も多く騒がしい。
「花祭り」「星流し」
実の頃(秋分~冬至ごろ)
実が付くころ。オセルノでも多少は寒い根の頃に向け、準備を始める。振り返ったり何かを払ったりする。
「迎え月」「森霊払い」
根の頃(冬至~春分ごろ)
根が良く見えるころ。水も減り、オセルノが最も静かな季節。新たな巡りに想いを馳せ祈る。
「根の輪祭」「暗洞追い」
ただ、公用語は多民族により均され変化していったのに対しオセルノの言葉は閉じていて変化が少なかったため公用語話者から見たときに古語的に感じる言い回しや置き換え不能な単語、存在しない発音等がいくつもある。
また、文字は完全に古語由来の独自のものとなっている。そのため「公用語は話せるけど読めないし書けない」という住民は多い。
観光関係の仕事に就いているものは高確率で読み書きまで可能なので、旅人は大抵彼らを頼っている。
ちなみに文字は18文字で補助記号が数文字。
また、食料確保の手段としてダンゴダマシやハネネギなどの野菜・果実・香草などの育成・採取、タールフやヨッタドリなどの肥育、ヒオイドリやタニジカの狩猟、アサエビやミナモマスの漁などが行われてきた。
豊富な食材と複雑な食文化は、訪れる旅人からも評価が高い。塩は貴重でかなりの割合を外部での購入に頼っている代わりに砂糖や蜜類は豊富なため、それらを軸にした大規模な取引を行っている。
集落を支えているトコトコの樹々、その一部は金に輝く果肉を持つ夜色の実を付け、古くは「月の実」とも呼ばれていた。
熟した実は収穫せずにいると段々と乾燥し硬くなっていく。自然に落ちるまで放っておいた実からは大粒の種が回収でき、これはトコトコの樹々だけは燃やさない特別な火種――灯種となる。
余談だがトコトコの実は結構美味なため、灯種の原料採取用の樹は住民や旅人が勝手に実をもいで食べてしまわないよう特別に囲われた土地に植わっている。
トコトコの種はそのままではキラキラしているだけの塊。火熾しが加工を施すことによって燃料として使えるようになる。燃料となった状態の灯種は職印を持つオセルノの正規住民でしか扱うことができない(そもそも外部の人間には使い方が分からないかもしれないが)
一般的な火起こしに使える道具類は渡し守に集落内に案内される段階で取り上げられてしまうので旅人が集落内で火を扱うことはで基本的にできないのだ。